労働基準法では、一定の要件を満たす労働者に対し、毎年別表1・2の日数の年次有給休暇を与えることを規定しています。
年次有給休暇は、原則として、労働者が請求する時季に与えることとされていますが、取得率が低調な現状にあり、年次有給休暇の取得促進が課題となっています。
このため、労働基準法が改正され、2019年4月から全ての企業において、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対して、年次有給休暇の日数のうち年5日については、使用者が時季を指定して取得させることが必要となりました。
(別表2)年次有給休暇の比例付与日数
週所定
労働
日数 |
1年間の
所定労働
日数 |
雇入れの日から起算した継続勤務年数 |
6か月 |
1年
6か月 |
2年
6か月 |
3年
6か月 |
4年
6か月 |
5年
6か月 |
6年6か月
以上 |
4日 |
169日から
216日 |
7日 |
8日 |
9日 |
10日 |
12日 |
13日 |
15日 |
3日 |
121日から
168日 |
5日 |
6日 |
6日 |
8日 |
9日 |
10日 |
11日 |
2日 |
73日から
120日 |
3日 |
4日 |
4日 |
5日 |
6日 |
6日 |
7日 |
1日 |
48日から
72日 |
1日 |
2日 |
2日 |
2日 |
3日 |
3日 |
3日 |
●労働基準法第39条(年次有給休暇)追加された条文
7.使用者は、別表1の有給休暇(これらの規定により使用者が与えなければならない有給休暇の日数が10労働日以上である労働者に係るものに限る。以下この項及び次項において同じ。)の日数のうち5日については、基準日(継続勤務した期間を6か月経過日から1年ごとに区分した各期間)から1年以内の期間に、労働者ごとにその時季を定めることにより与えなければならない。ただし、別表1の有給休暇を当該有給休暇に係る基準日より前の日から与えることとしたときは、厚生労働省令で定めるところにより、労働者ごとにその時季を定めることにより与えなければならない。
8.前項の規定にかかわらず、第5項(労働者が時季指定した場合)又は第6項(計画的に付与した場合)の規定により有給休暇を与えた場合においては、当該与えた有給休暇の日数(当該日数が5日を超える場合には5日とする。)分については、時季を定めることにより与えることを要しない。
ビジネスガイド2019年3月号 特定社労士岩崎仁弥論稿参照
まず、使用者の5日の付与義務日数については、労働者が時季指定した場合および計画的に付与した場合の日数分は控除できることが定められています。また、半日単位の年次有給休暇を労働者が取得した場合については、年次有給休暇を与えた場合として取り扱って差し支えないとされました。
具休的には、労働者が自ら時季指定して3日を取得した場合には使用者の時季指定は2日だけで良いこととなり、また労働者が半日の年休の取得を希望し使用者が同意したときは、使用者の付与義務日数は指定義務日数5日分から0.5日分が控除されます。
次に、時季指定を時間単位で行うことは認められず、もし労働者が時間単位で年休を取得した場合でも、付与義務日数から控除することはできないこととなります。
今回の年休付与の対象労働者は、基準日において10日以上の年休が付与されている従業員ですが、この場合の10日の日数には、比例付与対象者につき前年度の繰越分は含まれない点が明らかにされました。例えば、比例付与対象者で当該基準日に新たに8日付与されるパートタイマーについては、前年度の繰越し分が2日以上あったとしても当該年度においては、改正後の規定は適用されません。
次に、「前年度からの繰越分の年次有給休暇を労働者が使用した場合は、その日数分を使用者が時季指定すべき5日の年次有給休暇から控除することができるか」については控除することとし、従業員が実際に取得した年休が、前年度からの繰越分なのか、当該年度の基準日に付与された年休であるかについては問わないことが明らかにされました。
就業規則との関係では、「休暇に関する事項は就業規則の絶対的必要記載事項であるため、使用者が法第39条第7項による時季指定を実施する場合は、時季指定の対象となる労働者の範囲及び時季指定の方法等について、就業規則に記載する必要がある」と明記されました。そこで今回改正の時季指定義務についても、当然に就業規則に定めなければなりません。
使用者による時季指定はいつ行うのか、という点については、必ずしも基準日からの1年間の期首に限られず、当該期間の途中に行うことも可能です。
厚生労働省のリーフレットでは、次の2通りの方法を提示しています。
@基準日から一定期間が経過した夕イミング(半年後など)で年次有給休暇の請求・取得日数が5日未満となっている労働者に対して、使用者から時季指定をする。
A 過去の実績を見て年次有給休暇の取得日数が著しく少ない労働者に対しては、労働者が年間を通じて計画的に年次有給休暇を取得できるよう基準日に使用者から時季指定をする。
改正労働基準法施行規則24条の6では、今回の改正に基づいて時季指定する場合は、「当該有給休暇を与えることを当該労働者に明らかにした上で、その時季について当該労働者の意見を聴かなければならない」とした上で、「意見を尊重するよう努めなければならない」と規定しています。
使用者による意見聴取の方法について厚生労働省のリーフレットでは、@個別に意見聴取をする方法、A年次有給休暇取得計画表による方法が採り上げられています。@の場合は、年休取得が進まない特定の従業員のみを対象に行うことができます。
また、今回の改正では、使用者に対し、年休を与えた時季、日数および基準日を労働者ごとに明らかにした書類(年次有給休暇管理簿)を作成し、当該年休を与えた期間中および当該期間の満了後3年間保存することが必要となりました。早めにこの管理簿を整備し、労働者ごとの年休取得状況を把握しておきたいものです。
今回の改正は、年5日の年休の確実な取得が目的であり、すでに従業員自らの請求に基づく年休の取得が確実な者または労使協定による年休の取得が確実な場合については、当該取得が確定した日数については、使用者からの時季指定をする必要はなく、またすることもできなくなる点にも注意してください。
つまり、会社による時季指定を就業規則で規定化する場合、従業員から時季指定が行われていた場合(本人自らが年休取得を請求していた場合)は、その日数分は、5日から控除する必要があるため、その旨を定めておきます。この点は、労使協定に基づく計画的付与により年休が特定されている場合も同様です。言い換えるなら、仮に労使協定で5日分の年休時季が決まっていれば、そもそも使用者による時季指定は不要ということになり、就業規則の定めは不要です。
「使用者が時季指定した後に労働者が自ら年休を取得した場合、当該取得した日数分だけ、使用者が時季指定した日に年休を取得しなくても問題はないか」という点について、「法第39条第7項違反とはならない」としつつも、「この場合において、当初使用者が行った時季指定は、使用者と労働者との間において特段の取決めがない限り、当然に無効とはならない」として、使用者による時季指定が行われた日の年休取得を求めています。よって、従業員が自ら時季を指定して有給休暇を取得した場合に、使用者が時季指定した日を取り消す場合には、時季指定を取り消すことができる旨を就業規則に定めておく必要があります。
事後における時季変更の可否については、解釈通達では、@会社側から変更することは可能(ただし、再度の意見聴取が必要)としつつも、A従業員側からの一方的変更については、原則、従業員が変更することはできない(例外的に、会社が再度意見を聴取し、その意見を尊重することが望ましい) とされました。この例外を認めるかどうかは、会社ごとの判断となります。なお、再度の時季変更については、面談等の簡素な方法でよいと思います。
法定の年次有給休暇に加えて、取得理由や取得時季が自由で、年次有給休暇と同じ賃金が支給されるリフレッシュ休暇(特別休暇)を毎年労働者に付与し、付与日から1年間利用できることとしている場合に、この休暇を取得した日数分について、年5日の年次有給休暇の日数から控除して良いのかにつき、「リフレッシュ休暇」が、毎年、年間を通じて労働者が自由 に取得することができ、その要件や効果について、当該休暇の付与日からの1年間において、法定の年次有給休暇の日数を上乗せするものであれば、当該休暇を取得した日数分については、使用者が時季指定すべき年5日の年次有給休暇の日数から控除して差し支えないとしています。
1.会社は、従業員に対し、入社日(月の途中に入社した者はその月の初日に入社したものとみなす。以下同じ。)から起算する別表1上欄の勤続期間を満たす月の初日に、当該勤続期間に応じた同表下欄の日数の年次有給休暇を与える。
2.前項の年次有給休暇は、入社日から起算して6か月を超えて継続勤務する日及び以降1年を経過した日ごとの日(以下「基準日」という。)において、基準日の直前の1年間(初回の付与については6か月間)の所定労働日の8割以上出勤した従業員を対象とする。
3.前項の出勤率の算定にあたっては、年次有給休暇、産前産後の休業の期間、育児休業期間、介護休業期間および業務上の傷病による休業の期間は出勤したものとして取り扱う。
4.従業員の過半数を代表する者との書面協定により、各社員の有する年次有給休暇のうち5日を超える日数について、予め時季を指定して与えることがある。
5.年次有給休暇の有効期間は付与日から2年間とする。
6.前項による年次有給休暇の使用順序は、付与日から2年を経過していないものでかつ付与日がより古い有給休暇を優先する。
7.無許可欠勤に対する年次有給休暇の振替は原則認めない。
8.年次有給休暇の取得については、1日及び半日の取得を認める。半日単位の年休を取得したときは、0.5労働日の年次有給休暇を取得したものとして取り扱う。
9.年次有給休暇を取得した際には通常の賃金を支払うこととする。
*働き方改革について、ご相談があれば当事務所にご連絡ください。
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